誰もが平等な「美」を。ウクライナ支援をするGARDEN喜多翔吾とHydraidの共通点
喜多翔吾(GARDEN)
取材・文:株式会社雪か企画 写真:タケシタトモヒロ 編集:株式会社CINRA
―現在は銀座の「Laf from GARDEN」の代表を務められる喜多さんですが、もともとどのようなきっかけで美容師になられたのでしょうか?
喜多:人に喜んでもらえるような仕事がしたかったんです。野球選手とか、お医者さんとか、いろいろ考えたのですが、高校生のときに美容室に行って、「こんなにかっこいい美容師さんがいるんだ」と衝撃を受けたのがきっかけで。それが、いま勤めている「GARDEN」でした。
―喜多さんは、スタイリストになられて3年ほど経った2014年に、「GARDEN」のニューヨーク支店に異動されたそうですね。どのような経緯があったのか教えてください。
喜多:上司からニューヨークに支店ができること聞き、やってみないかと勧められたことがきっかけですね。当時28歳で英語はまったく話せなかったのですが、仕事に対する熱量がとても高く、何とかなると思っていたんです。不安よりも、「やってみたい」という気持ちが勝り、行く決断をしました。
美容師だったら誰しもが、カリスマになるとか、マネージャーになって売上を伸ばすことを目標にがんばるじゃないですか。でも、役職が上がれば上がるほどサロンワークから遠のくこともある。できるうちにお客さまへの向き合い方や美容師として大切なことなど、美容師らしいことを広く伝えたいと思ったんです。
―ニューヨーク支店での美容師生活はいかがでしたか?
喜多:ニューヨーク支店は開店当初、アメリカにいる日本人のお客さまをターゲットにしていたのですが、いざオープンすると、半数以上が外国のお客さまだったんです。何もしゃべれなくて、「これはまずい」とそのとき初めて思いましたね。
―それは大変ですね……。
喜多:それまでは、日本でスタイリストとして順調にキャリアを積んでいたんです。「自分はうまくいっている」という自負もあり、ニューヨークでも活躍できると信じていたいのですが、それが何もできない赤子に戻された感覚になりました。
お客さまに対して「今日はどんな髪にしましょうか?」とさえ聞けないんです。英語が話せるようにならないと、仕事にならないと思い、髪に関する言葉だけは一生懸命学びました。初心に返るチャンスだととらえ、1から学び直す気持ちで頑張りましたね。おかげさまでお客さまと1対1でじっくり向き合う時間が取れました。
―海外のお客さまは、日本の方とは髪質や頭のかたちが違うと思います。技術はどのように磨かれたのですか?
喜多:「海外に行って技術を磨きたい」というよりは、「自分が日本でやってきたことがどれだけ通用するかを試したい」という思いだったのですが、全然だめでした。
髪質も全然違いますし、クセの出方もさまざまで、誰かに「こういう髪質はこうカットするといい」と教えられても、いざ試してみると、うまくいかないことのほうが多かったです。
これがだめなら次はこうしてみよう、と自分で感覚を掴んでいくしかなくて。どんどん経験してスキルを重ねていくことで、徐々に慣れていきました。日本で磨いた技術は、日本人と髪質が似ている東アジア系の人にしか通用しなかったので、そういう意味でも1からのスタートでしたね。
―ニューヨークで得たものとしては何が一番大きかったですか?
喜多:向こうで経験したことのすべてが大きかったですが、特に出会いと経験だと思います。仕事でも私生活でも、初めての経験ができたり、新しい出会いがあったり。家庭を持ったいまだと、長期間海外で生活するのはなかなか難しいので、当時、思い切って決断してよかったです。
―喜多さんはウクライナ避難民のヘアカット支援という取り組みをされていますよね。2022年3月から始められたそうですが、どういった思いがあったのでしょうか?
喜多:始めた一番のきっかけは、ニュースで見たウクライナの子どもの姿ですね。子どもを連れて日本に避難しにきたウクライナの家族を見たとき、ぼくも育児をしている一人の父親として、「子どもと一緒に知らない国に来ることがどんなに大変か」と感じたんです。
大人はどこに行っても、ある程度はその土地に適応できると思いますが、子どもは親が面倒を見ないといけない。できるだけ親の力になりたくて、自分ができることをやりたいと思ったのがきっかけです。会社にも「どうしてもやりたいです」と強く主張して、受け入れてもらいました。
―最初にウクライナのお客さまがいらしたのはいつごろでしたか?
喜多:2022年の5月です。InstagramでDMをいただいて、子どものカットをしてほしいとのことだったので、「お母さんもぜひ」と、親子両方のカットをさせていただきました。「ここに行けば髪を切ってもらえる」と、いまでもウクライナのコミュニティー内で口コミが広がっているようです。
―ウクライナのお客さまはすべて、喜多さんが施術されているのでしょうか?
喜多:基本的には自分の手が空く時間のなかでやりくりしているのですが、このあいだぼくがバタバタしていたときに、後輩スタッフが「私に入らせてもらえますか」と言ってくれたんです。
困っている方を助けたい、力になりたいという思いはもちろんですが、美容師にもサポートできるという姿勢をスタッフにも感じてもらえたのかなと思い、すごくうれしかったですね。